【獣医師執筆】犬の1日に必要な水分量は?
愛犬の異変に気づくために知っておきたい!犬の1日に必要な水分量と飲水量
水分は生命にとって不可欠なものであり、人同様犬の健康にとっても重要な要素ですが、犬が1日に必要な水分量や飲水量を知っていますか?
適切な水分量と飲水量は犬の大きさや環境などによって変わります。大切な愛犬のためにも、必要な水の量を把握しておきたいですよね。
この記事では、犬が1日に必要な水分量や飲水量の計算方法、犬の水を飲む量が少ないときや逆に多いときに考えられる原因や対策について解説します。
- 犬にとって水分の役割と必要な水分量
水は、犬の体を構成する成分の約70%を占めており、健康維持には欠かせません。
ここでは、犬にとって水分の役割と必要な水分量について解説します。
・犬にとっての水分の必要性と役割
犬にとって体の水分は、以外のように健康維持に必要な役割を果たしています。
・汗や呼気で余計な体の熱を体外に放出する
・血液の循環や排尿により体温調節をする
・酸素や電解質、ホルモンを体に巡らせる
・毒となる老廃物を尿として体外に排出する
・血液や唾液といった体液を作る
・消化・吸収した栄養素を体全体に運ぶ
など
そのため、水分が失われてしまうと体内の水分バランスが崩れ、これらの働きに支障が出てくるのです。
つまり、体温調節ができずに熱中症になったり、臓器など体内の働きが鈍くなり、深刻な体調不良を引き起こす可能性があります。
・犬は飲み水以外からも水分を摂取している
基本的には、犬は水を飲むという方法で水分を摂取しますが、それだけでなく食事からも水分を摂取しているのです。
特に、スープタイプのフードやウェットフード(水分量約80%)は、水分量が約10%前後のドライフードと比較すると、より多くの水分を補えます。
さらに、食事の栄養素から作られる「代謝水」も、飲み水や食事に含まれる水と同様に体内で使用されるのです。この代謝水とは、吸収された栄養を体内で活用しやすいように分解したり、別の成分を合成したりする、「代謝」と呼ばれる過程で作られる水のことを指します。
・犬が1日に必要な水分量と飲水量の計算方法
犬が1日に必要とする水分摂取量の目安となる計算式は以下の通りです。
《犬が1日に必要とする水分量の目安》
=体重(kg)×0.75乗×132(ml)
ただし、上に述べたように、犬は飲み水以外からも水分をまかなっているため、1日に必要な水分量と飲水量(実際に水を口にする量)はイコールではありません。
犬の1日に必要な飲水量の目安となる計算式は以下の通りです。
《犬が1日に必要な飲水量の目安》
=体重(kg)×50 (ml)
しかし、これはドライフードが主食の犬の場合であり、水分量が多いウェットフードや手作り食が主食であれば、目安よりも少なめでよいでしょう。
また、気温や運動量によっても飲水量は変動する場合があります。
- 犬の飲水量が変わった場合に考えられる原因
飼い主さんは、犬の水を飲む量が少なくても、多すぎても心配になりますよね?
犬の飲水量が変わるのには、さまざまな原因が考えられます。
・犬の飲水量が減る原因とは?
気温や気候によるもの
犬は、夏場の気温が高い時期には体温調節のために水を多く飲みます。
しかし、冬場など気温が低い時期には、体温を下げる必要がなくなり、ノドの渇きも感じにくくなるため、飲水量が減ってしまう傾向があるのです。
加齢によるもの
犬は年齢を重ねると、代謝そのものが低くなったり、運動量が減ったり、ノドの渇きや気温の変化に鈍感になるため水を飲む量が減ってしまいます。
また、加齢による身体の節々の痛みから、水飲み場までの移動や、水を飲む体勢をとるのことが億劫になることもあるのです。
食事で水分量がまかなえている
水分量の少ないドライタイプから、水分量が多いウェットタイプのものにドッグフードを変更した場合にも飲水量は少なくなります。
これは、水を飲むことによって補っていた水分を、食事からまかなえている可能性があるからです。
病気が原因で飲水量が少ない
飲水量が減った場合、病気などのトラブルの可能性もあります。例えば、歯周病や口内炎など口腔内にトラブルが起きていると、水を飲むときに痛みを感じ、飲む量が少なくなることがあるのです。
また、ヘルニアや関節炎など、腰や足に痛みがあると、水飲み場に行くことが億劫になったり、水を飲むときの前かがみの姿勢がつらかったりなどで、水を飲む回数が減ってしまいます。
その他、飲水量が少ない場合に疑われる病気は、以下のようなものです。
・ジステンパー
・犬パルボウイルス感染症
・犬伝染性肝炎
・ケンネルコフ
・コロナウイルス性腸炎
・レプトスピラ症
・泌尿器、腎臓、肝臓の病気
・中毒
・悪性腫瘍
など
- 犬の飲水量が増える原因
運動量や筋肉量が増えた
筋肉を維持するためには、多くの水分を必要とします。
そのため、運動量が多い犬や筋肉質の犬ほど飲水量が多くなる傾向があるのです。
気温や気候によるもの
犬は、夏場など気温が高い時期には、体温を下げるため、水を多くを飲んで体温調節をします。
これは、冷たい水で体温を低くするだけではなく、水を飲んでからパンティングをすることで、舌や口内の表面から水分を蒸発させ、体温調節を行っているのです。
食事を変更した
食事を水分量の多いウェットフードからドライフードに変えると、水を飲むことによって、食事から摂取していた水分を補おうとします。
また、塩分が多く含まれている食事を与えた場合にも、ノドが渇きやすくなり、水を飲む量が増えるのです。
ストレス
お留守番の時間が増えたり、環境が変わったりなどで、大きなストレスを抱えている場合にも、水を飲む量が増える場合があります。
薬の影響
病院で処方される薬の中には、水を飲む量が増え、必然的におしっこの量も増える(多飲多尿)ものがあるのです。例えば、ステロイドを服用した場合にも多飲多尿がみられます。
ですので、病院で薬をもらう際には、どのような副作用があるのかを事前に確認しておきましょう。
飲水量が多すぎる場合に疑われる病気
病気が原因で水を飲む量が増えることがあります。
このような場合、おしっこの回数も大幅に増え、粗相をするようになったり、夜中にトイレに行きたがったりすることもあるのです。
飲水量が多すぎる場合に疑われる病気には、以下のようなものがあります。
・腎臓病
・膀胱炎
・糖尿病
・子宮蓄膿症
・尿崩症
・副腎皮質機能亢進症
・肝臓の病気
など
- 犬が水分をとらないとどうなる?
犬も水分が不足すると、人と同じく体調の変化や脱水を起こす危険性があるのです。
ここでは、犬が水分をとらない場合の体の変化について解説していきます。
・犬の水分量が不足するとどうなる?
犬の水分量が十分でないと、まず必然的におしっこの回数や量が減ったり、おしっこの色が濃くなります。
また、便が固くなり、それにより排便の回数が減り、便秘になることもあるのです。
この程度の水分不足であれば、水や食事を摂取することで状態が回復しますが、進行すると人と同じく脱水が起こる危険性があります。
もし、水や食事を摂取するだけでは便秘が改善しない場合には、穀物をとるのがおすすめです。穀物には、腸内の善玉菌を増やしたり、胃腸の運動性や消化吸収を高めたりと整腸作用があり、便通を改善させる効果があります。
・犬の脱水状態の見極め方
脱水状態の見極め方は以下のとおりです。
【脱水のチェック方法】
愛犬の背中の皮膚を指で少しつまんでみます。そして、つまんだ皮膚を離し、つまむ前の状態に戻るまでに2~3秒以上かかるようであれば、脱水していると判断していいでしょう。
【脱水のサイン】
脱水になる危険性が高いか、すでに脱水状態にある場合、以下のようなサインもみられることがあります。
・目がくぼんでいる
・鼻や口の中全体が乾いている
・食欲が落ちている
・歯茎が乾燥している・口が渇いている
・元気がなく、無気力でボーっとしている
・ぐったりし、倒れる
・脱水症状を放置するとどうなる?
脱水症状を放置してしまうと、心臓への負担が大きくなり、ショック症状を引き起こして、最悪の場合には死に至るケースもあります。
また、臓器など体内の働きが鈍くなり、多臓器不全を起こすこともあるため、注意が必要です。
- 犬が水を飲まない場合の対策や予防法
最後に、犬が水を飲まない場合の対策や予防法について解説します。
・水の容器や水飲み場の環境を見直す
歳を重ねたり、体に痛みがあると、水飲み場に行くことや水を飲む姿勢をとることがつらくなるため、水を飲みやすいよう工夫してあげましょう。
愛犬がいつも居る場所の近くに水飲み場を移動したり、水飲み場の数を増やすことで、水飲み場へ行く距離が短くなり、水を飲む回数が増えることがあります。
また、飲みやすい姿勢がとれるように給水器の置く場所や高さを調節したり、水の容器を台の上に置いて高さを愛犬に合わせてあげましょう。
・水の与え方を工夫する
器から飲まない場合でも、飼い主の手からであれば水を飲んでくれることがあります。
また、シリンジであげる方法もありますが、無理にあげると誤嚥することもあるので注意が必要です。
・水に風味をつける
水に風味をつけると飲んでくれることもあります。犬用の牛乳や、鶏肉や野菜を煮出したスープを水に風味づけ程度に数滴加える方法がおすすめです。
・食事から水分を補給する
なかなか水を飲んでくれないときには、食事を水分量の多いウエットフードに変更したり、フードをふやかしたり、食事から水分を補給するのが一番簡単な方法ですので是非試してみてください。
- まとめ
今回お伝えした、1日に必要な水分量や飲水量は一つの目安ですので、あまり細かい数字に縛られる必要はありません。水分摂取量を気にすることよりも「いつもとの違い」に気づくことのほうが大切です。
ただ、必要とされる水分量や飲水量を理解しておくことにより、愛犬の異変に気づきやすくなります。
また、水を飲む量が増えた場合も、減った場合も原因の特定は難しく、病気が潜んでいる可能性があるため、動物病院を受診するようにしましょう。
愛犬の水分補給におすすめのフード